取引先の金型メーカーが廃業した場合の対処法

「先代から30年以上お付き合いしてきた金型屋さんが、今月いっぱいで廃業するって……」

そんな連絡が届いた瞬間、製造現場の担当者が頭に浮かべるのは、「生産トラブルが起きたらどうするか」「新規案件の金型をどこで製造するか」ということではないでしょうか。

こうした状況のご相談およびご依頼が最近増えてきました。

帝国データバンクの調査によれば、2025年1〜9月だけで、金型メーカーの倒産・休廃業・解散は合計126件に上り、4年連続で増加しています。10年前に約8,000所あった金型製造業の事業所数は、2023年には4,321所とほぼ半減しています。

この記事では、私どもがこれまで経験してきたことをもとに、取引先の金型メーカーが倒産・廃業したときに起きやすいこと、そのときに動けることについて、率直にお伝えできればと思います。

目次

「別の業者に頼めばいい」がうまくいかないことが多い理由

よく「廃業するなら、金型だけ持ち帰って別の業者に頼めばいいのでは」とおっしゃる方がいます。確かに、それが一番シンプルな解決策です。

ただ、それがすんなりいくケースの方が少ないのが正直なところではないでしょうか。なぜなら金型という製品の特性上、次のような問題が重なって起きやすい傾向があるからです。

他社の金型は「引き受けられない」と断られることが多い

弊社も含め、多くの金型メーカーが他社製金型の引き受けに慎重なのには理由があります。

金型は、ちょうど料理人が長年使い込んだ包丁のようなものです。同じ形の包丁でも、研ぎ方のクセや刃の傷み具合は、使い続けた本人にしかわかりません。金型も同様で、プレス機との微妙な相性や、製作した職人による細かな調整の積み重ねが、「作った職人の暗黙知(経験と勘による知識)」として金型そのものに刻まれています。

この暗黙知は図面やデータには残らないため、他社が引き継いだ場合、同じ性能を再現するのが難しく、量産中にトラブルが起きても原因を特定しにくいという問題があります。その結果、不良品が出た際に「調整不足なのか、金型自体の劣化なのか、使い方の問題なのか」の切り分けが難しくなり、責任の所在があいまいになりがちです。

こうしたリスクを避けるため、他社製金型の受け入れに慎重な業者が多いというのが実情です。

「図面がない」「メンテナンス履歴がわからない」というケースも多い

移管先が見つかっても、次の問題として設計図面がない、というケースがよくあります。

それだけでなく、肉盛り溶接(摩耗部分を溶かして肉を盛り直す修理)や刃先の再研磨(鈍くなった刃を削って鋭くする修理)など、過去のメンテナンス履歴も残っていないことが多いようです。

こうなると、引き継ぐ業者は現物を一から解析しなければなりません。費用も時間も、新規で金型を作り直すのと変わらないレベルになることがあります。

移管が遅れると、生産ラインが止まってしまうこともあります

移管先が見つからず、図面もない。そうなると、その金型から作っていた製品の供給が止まってしまいます。

たった一つの部品が欠けるだけで、最終製品の組み立てライン全体が止まるのが製造業の難しいところです。自動車や医療機器などのサプライチェーン(部品の調達・供給の連鎖)では、欠品が発生すると大きな問題に発展することがあります。

廃業の連絡を受けたら、早めに動くことが大切です

これまでの経験からすると、廃業・倒産の連絡を受けたあとに動き出しが早かったお客様ほど、問題を最小限に抑えられているように感じます。

廃業・倒産の報告を受けたら、できるだけ早めに「金型の引き取りについて」連絡を取りたいところです。

確保できると助かるものを優先度順に整理するとこうなります。

優先度確保すべきものなぜ重要か
最優先金型本体製品の製造ができなくなる
最優先設計図面(2D/3D CADデータ)移管先探しの難易度を大きく左右する
できればメンテナンス・修理履歴移管先が金型の状態を把握するために必要
できれば使用材料・成形条件の記録同品質での量産再開に役立つ

しかし図面がない場合、あきらめるしかないのでしょうか?

設計図面がない場合でも、対応できることがあります

「図面が見つからなかった……」という場合でも、あきらめないでいただければと思います。

別の金型屋のもつ技術と経験によって、復元できる可能性もまだ残されています。

すべてのケースに対応できるとは限りませんが、「30年前に作られた、図面のない金型」でも、相談できることはあります。

金型の更新のメリット

図面がない金型の場合、私どもが実際によくお勧めしているのは、「今ある金型や、そこから作られた成形品(実際に出来上がった製品)を確認し、必要な仕様を整理した上で、新しい金型として設計・製作し直す」という進め方です。

古い金型そのものを無理に修理・再現しようとすると、かえって費用も時間もかかってしまうことが少なくありません。

私どもの経験では、「30年前に作られた、図面のない製品」であっても、現物をしっかり確認させていただければ、新しい金型として作り直した実績例があります。

実績例①:業務用カッターの金型の更新

30年以上前の金型で、70代の熟練作業者が製品を作り続けてきましたが、高齢化により生産場所の変更を迫られました。そこで、既製品を採寸し、現行品と同じ金型を新規で製作したいというご依頼でした。時間はかかりましたが、既製品の改善点を反映させ、メーカー様もプレス業者様も満足される金型をご提供できました。

実績例②:ホテルの屋根瓦の更新

歴史的価値のある建築物の銅製の瓦をリニューアルしたいとのご依頼で、100年前に職人が手作業で成形した製品のみをお持ちいただきました。「これを再現したいので、その金型を製作して欲しい」とのご要望をお聞きし、誰もが難しい案件と思いましたが、実験用の金型を何度も製作し、トライ&エラーを繰り返しながら、3ヶ月間かけて金型15面を完成させました。

金型更新の大まかな流れは、次のとおりです。

  1. 現物・成形品の確認:今ある金型と、そこから作られた成形品を拝見し、必要な形状・寸法を整理する
  2. 新しい金型の設計:整理した情報をもとに、CADで新しい金型の設計を行う
  3. 試作制品の製作:設計データに基づいて金型を製作し、試作品を製作する

すべてのケースに対応できるとは限りませんが、「図面がないから、もう無理だ」と決めてしまう前に、一度ご相談いただければと思います。

Point!

廃業連絡を受けたら、①金型本体と設計図面の確保、②図面がなければ現物・成形品の確認から新しい金型製作のご相談、という流れで動くことが多いです。早めのご相談が選択肢を広げます。


まとめ:困ったことがあれば、気軽にご相談ください

この記事でお伝えしたことを簡単に整理すると、

  • 他社製金型の移管は断られやすく、設計図面・履歴がなければさらに難しくなりやすい
  • 廃業の連絡を受けたら、できるだけ早めに金型本体と設計図面の確保に動くことをお勧めしたい

ということになります。

取引先の廃業に伴う金型の移管・引き継ぎや、設計図面がない状態での他社製金型の修理・メンテナンスについて、「こういう状況なんだけど相談できますか」という段階からでも、気軽にお声がけください。できる限り一緒に考えさせていただきます。

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