プレスの「絞り加工」とは?曲げやせん断との違いについて

先日、お客様からこんな質問をいただきました。

「図面に『絞り』って書いてあるんだけど、これって曲げで対応できますか?」

実は「絞り加工」と「曲げ加工」は、名前は似ていても、加工の仕組みがまったく違います。

この記事では、「絞り加工とは何か」について、言葉とイメージを整理します。金型の部品名や内部構造の詳細は、別の記事で扱います。

なお、材料の種類・板厚・形状によって条件は大きく変わります。「この製品、絞りで作れますか?」という判断は、図面や仕様をいただいたうえで個別に確認させてください。金型メーカーに問い合わせる前の「下調べ」として、気軽に読んでみてください。

目次

なぜ「絞り」と「曲げ」は別物なのか

金属の板を手に持ってみてください。

これを「折り曲げる」のと、「カップ状に押し込む」のでは、まったく違う力のかかり方をしますよね。前者が「曲げ加工」、後者が「絞り加工」のイメージです。

プレス加工(金属の板にプレス機の力を加えて形を作る加工)には、大きく3つの区分があります。

プレス加工の3区分:せん断・曲げ・絞りの違い

区分何をするか身近な例え
せん断(切る)必要な線に沿って材料を分離するハサミで紙を切る
曲げ(折る)直線・曲線に沿って角度をつける定規で紙を折り目に沿って折る
絞り板を筒や皿のような立体形状にする粘土をカップ型に押し込む

「絞り」は、材料を薄く引き伸ばして、奥行きのある形に成形していく加工です。「板を折り曲げる」曲げ加工とは、動きも力の向きも根本から異なります。

当社でも、お客様の図面を見ながら「この形状は曲げで対応できる」「この部分は絞りが必要になる」と意見が分かれることは、打ち合わせの場で少なからずあります。

「絞りは曲げとは別物」と押さえておくだけで、会話がぐっとスムーズになります。

Point!

絞り加工とは、板の厚みをある程度保ったまま、カップや筒のような奥行きのある立体形状を作る加工。「板を折り曲げる」曲げ加工とは、仕組みがまったく違う。

絞り加工が選ばれる理由は何か

では、なぜ溶接や切削ではなく、絞り加工が使われるのでしょうか。

他の加工法と比べてみると、絞り加工が持つ3つの強みがはっきりします。

1. 継ぎ目がない(一体成形)

溶接で金属容器を作る場合、複数のパーツをつなぎ合わせるため、どうしても「継ぎ目」ができます。その継ぎ目から液体が滲んだり、強度が落ちたりするリスクは避けられません。

絞り加工は一枚の板から立体を作るため、継ぎ目がありません。液漏れのリスクが下がり、強度も安定しやすくなります。部品点数が減ることで、組み立ての手間も省けます。

2. 材料の無駄が少ない

金属の塊から形を削り出す切削加工は、削りカスが大量に出ます。材料の多くが「捨てる部分」になります。

絞り加工は板を変形させて形を作るため、材料の無駄を抑えやすいです。コスト面でも有利になるケースがあります。

3. 加工することで強度が上がる

金属は、大きく変形させると硬くなる性質を持っています(これを「加工硬化」と呼びます)。絞り加工を経ることで、元の板材よりも製品の強度・剛性が上がることがあります。

もちろん、せん断・曲げ・絞りが同じ金型にまとまっている製品もあります。上記は大まかなイメージとしてご参考ください。

Point!

絞り加工の主な強み:①継ぎ目のない一体成形、②材料の無駄が少ない、③加工硬化による強度アップ。ただし製品によって最適な加工法は異なる。

絞り加工でできる形状とは、どんなものか

実際のところ、絞り加工でどんな形が作れるのでしょうか。

わかりやすいのは、丸い板(「ブランク」と呼びます)をカップや円筒に近い形へ押し込むパターンです。

  • 底のある筒
  • 浅い皿
  • 段のついた筒

台所にある鍋・コーヒーカップの金属部分・モーターのケース――こうした形に近い部品が、絞り加工で作られる代表例です。

「板を曲げて角を立てる」のではなく、「外周を押さえながら、中央側を奥へ送り込む」動きだとイメージしてください。材料が外側から内側へ流れ込むような加工です。

実際には円だけでなく、楕円や角形など様々な形状があります。この記事では「側面が立ち上がっている形」を絞り加工のイメージの土台として押さえていただければ十分です。

現場でよく出てくる言葉とは?

現場や図面まわりで出てくる言葉を、会話での意味合いとして整理します(厳密な定義ではありません)。

  • 円筒絞り:丸いブランクから円筒に近い形へ絞る、最も説明しやすいパターンです。
  • 深絞り(深い形状):高さ方向に材料を多く流す必要があるとき、この言葉が出やすいです。一度の工程では難しく、複数工程に分ける話につながることが多いです。「深絞り」の線引きは会社・業界によって差があります。
  • 段付き・段差のある筒:直径が途中で変わる形状は、工程や金型の考え方が複雑になりやすいです。詳細は図面ベースで確認が前提になります。

寸法や工程数の判断は、個別のご相談でご確認ください。

Point!

絞り加工でできる形の土台は「側面が立ち上がっている形」。鍋・カップ・モーターケースのような形が代表例。寸法や工程数の判断は個別相談が前提。

「深絞り」「異形絞り」という言葉、何が違うのか

「深絞りってよく聞くけど、普通の絞りと何が違うの?」

こう思った方もいるでしょう。図面・業者・文献によって使い方が変わりますから、ここで会話のイメージ合わせをしておきます。

言葉どんな意味で使われることが多いか
深絞り高さ方向に材料を大きく流す必要があり、工程や金型への負担が大きくなりやすい絞りの総称。「深い=難しい」とは一概に言えないが、一工程で仕上げにくい話になりやすい。
異形絞り楕円・角・凹凸など、断面が円にそろわない形状の絞り。材料が均等に流れないためシワや割れが起きやすく、難易度が上がる傾向がある。
深さ+異形形が複雑で深さもある場合は、用語の整理より図面と断面の確認が先になる。
(形状によっては加工不可もあり得るため要相談)

「どの言葉を使うか」よりも、高さ・外形・板厚・材質・数量が整理されているかの方が現場では重要です。用語はあくまでコミュニケーションの補助として使っています。

Point!

深絞り=高さ方向に材料を多く流す加工。異形絞り=断面が円でない複雑な形状の絞り。いずれも「用語より図面の情報」が先。

まとめ

この記事では、以下の3点を整理しました。

  1. 絞りとは何か:板の厚みをある程度保ったまま、奥行きのある形を作る加工
  2. せん断・曲げとの違い:「切る」「折る」とは仕組みがまったく異なる
  3. 深絞り・異形絞りという言葉:定義は揺れやすく、条件の整理が大切

絞りの話をより具体的にするには、金型の部品(パンチ・ダイ・しわ押さえなど)に触れる必要があります。

次の記事では、絞り金型の基本的な構造と主要部品の役割を、同じく一般論の範囲でまとめます。

図面や試作のご相談は、仕様をいただいたうえで個別に確認させていただきます。

ぜひお気軽に「植木製作所」までご相談ください。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次